Green Finsでダイビング・シュノーケリング事業者がすぐにできる海洋保全の取り組み

前回の記事では、2025年の論文をもとに、ダイビング観光が世界で年間最大約3兆円の経済効果を生む一方、その源泉であるサンゴ礁が劣化しつつある現実を紹介しました。本記事では、論文が保全の担い手として名前を挙げた国際的な環境基準「Green Fins」が、その課題にどう応えるのかを解説します。
1.「海の劣化」を、現場で減らせる負荷から減らす
サンゴ白化現象の主因である海水温の上昇は、一つのショップでは止められません。しかし、アンカーの打ち方、ダイビング時の中性浮力、生き物への接触、餌やり、ボートや施設からの排水、ゴミの管理といった事業者の日々のオペレーション由来の負荷は、ショップ自身が減らせます。
Green Finsは、こうした項目を15の環境基準(行動規範)として具体化しています。「環境に配慮しています」という姿勢を、スタッフ全員が同じ手順で実行できる形に落とし込める点が特徴です。
2.論文が求める「標準化されたデータ」を、現場から積み上げる
Green Finsの認証会員(アクティブな地域の事業者)は、認定アセッサーによる現地評価とトレーニングを毎年受けます。同じ基準で毎年評価されるため、事業者ごと・地域ごとの取り組み状況を、比較できる形で継続的に記録できます。
これは、論文が「業界の実態を把握するには標準化されたデータの継続的な収集が不可欠だ」という趣旨で提言している点に、現場レベルで応える仕組みでもあります。
3.地域の管理や行政との対話で「発言力」を持つ
論文は、ダイビング事業者の知見を沿岸管理に取り込むべきだと主張しています。しかし現実には、「ダイビングショップが言っていること」は、個々の経験談として扱われがちです。
国際基準にもとづく評価の記録を持つ地域のダイビングショップが集まれば、「私たちの地域ではこれだけの事業者が、この基準で環境負荷を管理している」と示すことができます。
行政や観光協会、他産業との対話で、ダイビング業界が「趣味の業界」ではなく「海の管理者の一員」として席に着くための材料になります。
4.「選ばれる理由」と、変動に強い事業基盤
論文では、観光に依存する地域経済が、コロナ禍のような外部ショックに弱いことも指摘しています。価格競争に巻き込まれやすいダイビング市場で、環境配慮を客観的に示せることは、環境意識の高い国内外のゲストや、企業のCSR・研修需要に対する差別化要素になり得ます。
✍️ 筆者から一言
私はGreen Finsのアセッサーとして、沖縄県内のダイビングショップやリゾートホテルのマリンアクティビティ事業の評価に関わっています。実際に評価に入ると、サンゴへの影響が指摘されている成分を含む日焼け止めの案内ができていない、海洋ゴミのクリーンナップやモニタリング活動に参加していないなど、ベテランのショップでも取り組みができていない点が見つかります。一方で、「ブリーフィングで餌付けをやめたことを話すようにした」など、導入後にスタッフの意識やゲストの反応が変わったという声も聞いています。
まとめ:ダイビングショップは「海の資産」の最前線の管理者
この論文が示したのは、次の3点です。
ダイビングは、世界で年間最大204億ドル・最大12.4万人の雇用を生む、地域密着型の産業である
その価値の源泉であるサンゴ礁が劣化していると感じている事業者は、特に熱帯地域で多い
産業としての発言力を持つには、標準化されたデータと、地域単位での取り組みが必要である
海の健康は、ダイビングビジネスにとって「あったらいいもの」ではなく、事業そのものの資本です。Green Finsは、その資本を守る取り組みを、一つのショップの努力から地域全体の仕組みへと広げていくための、すでに国際的に運用されている選択肢の一つです。
✍️ 筆者から一言
沖縄をはじめ、鹿児島県、高知県、和歌山県、静岡県など、サンゴが見られる日本の各地域でGreen Finsに取り組むショップが増えれば、日本のダイビング業界全体の発言力も変わるはずです。
導入に関心のある方、まずは話を聞いてみたいという方は、Green Fins JAPANチームの窓口までお気軽にご連絡ください。
日本事務局 一般社団法人バーチュデザイン:https://www.virtue-design.or.jp/
Green Fins 公式サイト:https://greenfins.net/
※筆者はGreen Fins日本チームの認定アセッサー、一般社団法人バーチュデザインの理事を務めています。
出典
Schuhbauer, A., Favoretto, F., Wang, T., et al. (2025). Global economic impact of scuba dive tourism. Cell Reports Sustainability, 2, 100435. https://doi.org/10.1016/j.crsus.2025.100435(CC BY-NC-ND 4.0)
図版:論文のデータをもとに編集部作成(図4はGreen Fins公式情報も参照)


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